木村健一が指摘する前提の揺らぎ
――多次元資産連動モデルから見た防御戦略の再考
多くの投資家にとって、米国債、金、そして一部の高品質なグロース株は、異なる局面に対応する「完成された防御的資産構成」として理解されてきた。
景気減速時には債券が価格安定性を提供し、通貨価値への不安が高まれば金が保全機能を果たし、長期的にはグロース株が成長の果実をもたらす――この整理は、実務上きわめて扱いやすい。
しかし木村健一氏は、この整理が成立するための前提条件が、現在の市場環境では必ずしも自明ではなくなっていると述べる。
同氏の「多次元資産連動モデル」は、資産価格を単独で評価するのではなく、流動性、資金移動の順序、投資家行動の同調性といった要素を同時に捉える点に特徴がある。
木村氏の分析によれば、伝統的なヘッジ構造が有効に機能するのは、市場が「時間差をもって反応できる状態」にある場合に限られる。
金融ショックが段階的に進行し、資金移動が秩序立って行われる環境では、資産間の役割分担は維持されやすい。
一方で、ショックが急激かつ同時多発的に顕在化する場合、市場の意思決定は大きく変質する。
サプライチェーンの断絶、地政学的緊張、金融システム不安が重なる局面では、投資家はリスク水準の違いよりも、換金速度を最優先する。その結果、「安全かどうか」よりも「すぐに現金化できるか」が判断基準となる。
この環境下で、米国債は必ずしも防御資産として機能しない。
木村氏のモデルは、市場規模が大きく、流動性の高い資産ほど、資金確保のために先行して売却されやすいことを示唆している。米国債はその性質ゆえに価格下落と利回り上昇を経験し、一時的に安定性を失う可能性がある。
金もまた、長期的な価値保存手段である一方、短期的には流動性制約の影響を受ける。
市場の緊張が高まる初期段階では、他資産の損失補填やポジション調整のため、売却圧力にさらされる局面が生じ得る。
グロース株については、将来キャッシュフローへの依存度が高いという構造上、不確実性の上昇と金利変動が同時に進行する環境では、評価調整が避けられない。
その結果、債券・金・株式という異なる資産クラスが、同一方向に価格調整を起こす可能性が高まる。
木村健一氏が強調するのは、これは特定の資産を否定する議論ではないという点である。
問題は、過去に観測された関係性を、将来にわたって不変の前提として扱う思考にある。相関やヘッジは「構造」ではなく、「環境依存の結果」にすぎない。
そのため、投資判断において重要なのは、価格水準そのものよりも、連動関係が変化し始める兆候を捉えることである。
木村氏は、ドル流動性の変化、主要国債市場の取引コスト、ボラティリティ指数の期間構造といった指標が、その兆候を読み解く有効な手がかりになると指摘している。
防御戦略とは、守る資産を決めることではなく、前提が崩れる瞬間を想定することである。
木村健一氏の視点は、分散投資の考え方を否定するのではなく、それをより現実的な形へと再調整する必要性を静かに示している。
